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センテンス・オータム

ディープ・マニアック・鋭く「DMS」 様々なアレについて... (シーズン中は野球ネタ多し)

【怪談のテープ起こし】 三津田信三

昔から「事実は小説よりも奇なり」なんてよく言われるが、本当にその通りだと思う。創作はノンフィクションに勝てないーー

 

 

一時期「新潮45」シリーズにハマっていた。私が読んでいたのは実際に起きた事件の経緯、犯行に及んだとき、その顛末を、作家やライターが“読み物”として書き起こしたものである。

 

 

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この中に収められていた【葛飾「社長一家」無理心中事件】。‥恐怖としかいいようがない。ただ、「怖い」よりも究極な「不気味」といった表現の方が適切だろうか。終始作中に漂う薄暗さ感。あれが事実だったと思うと、どんなホラー小説でもかすんでしまう。活字によって“身の毛がよだつ”体験をしたのは、その時が初めてだった。

 

話の概要はこういった感じ。借金地獄に陥った男が、同居する家族を殺し、あとで自分も追うつもりでいたのだが、なかなか死にきれなかった。死に場所を求めて、なおも旅を続ける男‥。もちろん、恐怖はこれだけに留まらない。彼は道中、自らの声をテープに吹き込んでいたのだ。「死」への過程を....

 

本書ではテープの内容が克明に明かされる。現代なら動画といった手段もあり、実際にそうした者もいるらしいが、彼が用いたのはカセットテープ。声という“音”だけしか届いてこないのが、より不気味さを際立たせているかのよう。実際、そのテープを耳にし、精神に異常をきたしてしまう人もいたのだとか。

‥私もあらゆる手段を尽くし、件のテープを聴こうと奔走したが、ついぞ見つけられなかった。けれど、今おもうと、結果的にはそれで良かったのかもしれない。

 

 

ここで登場するのが三津田信三著、【怪談のテープ起こし】である。

彼の著作に目を通すのは初めてだったが、「ミステリ」を得意ジャンルとしているそう。文体は美しく、語彙も豊富で、私はてっきり年配の方なのかと思ったのだけれど、あとで調べたら同年代であったことに、まず驚いた。

本のタイトルにもなっている作品(正確には「死人のテープ起こし」)を含め、ミステリ系小説が6篇。合間合間に「幕間」と題した、各小説にまつわるエピソードなどが綴られている。

 

 

怪談のテープ起こし

 

 

私が本書を手に取ったのは、もう言うまでもなく「怪談テープ」に惹かれたから。実際に起こった“あの事件”のことも、作中に少しだけ触れられており、明らかに意識させた内容のものとなっている。

 

冒頭記したとおり、創作が「事実」に適うことは絶対になく、大して怖くもなかったけれども、この作品に関してはラストに、すべての“ミステリ”が集約されていたと思う。

著者の魅力が存分に発揮されていたと感じるのが、次章の【留守番の夜】だ。とある資産家の家の留守番を任されることになった、女子大生の話。その豪邸が立つ街に、彼女が降り立ったときからして、雰囲気たっぷり。バラバラ殺人‥豪邸の中にある砦の謎‥そして家主‥。読み進めるうち、それらが歪に結びついてゆく。

 

以下、【集まった四人】は初対面の4人が山に登る話。【屍と寝るな】は、かなり特異なストーリーで、いささか展開が強引すぎる気もした。【黄雨女】は、王道といえば王道。ある日を境にし、見かけるようになった怪しい女の正体とは。終章【すれちがうもの】も同種で、迫りくる目には見えない恐怖におびえ続ける女の話だ。

 

全体の印象としては、前半は良い。だが、後半が少々弱い。よく練りこまれたストーリーの【留守番の夜】を読んだあとだと、余計なのかもしれない。ミステリ作家、三津田信三という名は、私も覚えておきたいとは思う。

 

 

殺人者はそこにいる―逃げ切れない狂気、非情の13事件 (新潮文庫)