マレーシアのクアラルンプール国際空港で殺害された金正男(キム・ジョンナム)氏。空港備え付けの防犯ビデオには犯行の一部始終が収められていたが、まさに「電光石火」といった塩梅。この事件に関しては、今も多くの謎が残されている。
‥と、切り出してはみたけれど、氏のことは私自身、よく存じていない。持ち合わせているのは、何度か日本のディズニーランドに極秘で来ていたことと。‥故・金正日の息子であったこと。
大昔の【世にも奇妙な物語】に、実名こそ出していないが、北朝鮮をモロに意識した作風のものがあった。この世でいちばん偉大な「指導者様」。そう徐々に“マインドコントロール”されていく子供たち‥。なんとも形容しがたい、厭な作品だった。
それを見たから、でもないのだが、アジアのどの国よりも北朝鮮という国が長年気になっていたのは事実である。‥誤解がないように予め言っておくと“好き”なのではない。ただあまりにもベールに包まれているお国柄ゆえ、よくいえば知的探求心から沸き起こるものだ。
したがって「今どこに海外旅行に行きたい?」と問われれば、北朝鮮になるだろう。‥むろん、一応、私もそれを口には出さないけれども。本人の意図せず連れていかれてしまった人もいるのだから、この辺りの発言はより慎重にならなければならない。
こんな私なので、のなかあき子の著書と出合うのは、もはや必然だった。タイトルそのままの【北朝鮮行ってみたらこうなった。】
意外にも、ネットで探せば北朝鮮行きのツアーというのは結構ある。中国を経由していくパターン。彼女もこれに参加していた。表向きには「新婚旅行」となっているが、動機はかぎりなく私寄りで、好奇心からといっていい。しかも二人そろって、北朝鮮に対して強い関心を持っているという、ツワモノ夫婦だ。
だいたいツアーで巡るようなところは、良い箇所しか見せない。だから著者も期待していたであろう北朝鮮の“暗部”に触れるようなところはなかった。北朝鮮でも「定番」となる名所を巡る旅だけに、現地で会う北朝鮮人といっても、ホテルや売店できちんとした教育をされた者たちばかりで、そこから「マインドコントロール臭」は特段漂ってこない。観光地で働いている北朝鮮人に美女が多いのは、どうやら噂通りの模様。
食事面も、韓国のより日本人の味覚にあうでのは?といった記述もみられる。大都市・平壌に居座るツアーであるなら何不自由なく、日本人も「北」を謳歌することができそうだ。
金日成の遺体が安置される宮殿のレポは詳細で、解りやすかった。もちろん写真撮影は禁止だから“現物”を見ることはできないが、イラストでも大まかな状態を確認できる。
これもかならずツアーに組み込まれる「主体思想塔」。塔の中にあるBARには、やはり美女がいるのだとか。‥気になるところだ。そして俄然、興味をそそられたのは北朝鮮の地下鉄事情。これは「鉄ちゃん」ならずとも、拝んでみたい。もっとも立派なのは駅舎だけなのだが。
これとは別に、平壌から離れた「金剛山ツアー」にも、著者は参加しており、本書は“二本立て”からなっている。北朝鮮の“開かれている”部分は、大いにうかがい知ることができた。
この本の初出は約10年前‥。当時は海外旅行客も、まだ多かったらしいが、金正恩体制になって多少風向きが変わった部分もあるのだろうか。決して“気軽”には、行けない。