センテンス・オータム

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【いのちの車窓から】 星野源 ★★★☆☆

「電車の中で読んでいたのですが、笑いを堪えるのに必死でした」

「夜中にひとり、部屋で大爆笑してしまいました」

 

 

そんなようなレビューをよく見かける。‥あれ本当なのだろうか。漫画ならともかく、「活字」のみで人を大爆笑させたなら、その本は相当である。もっとも自分の場合は知識を得るための読書が大半なのであって、本に、決して「笑い」を求めているわけではない。だから、目的からして、まず違っているわけだ。

ただ、幸運にもそういった書籍に巡り合えた方々は羨ましい。そして、芸人でも放送作家でも飯を食っていけるであろう著者を、きっと尊敬する。

 

 文章表現の仕方、ものの視方は参考になったものの、別に声をあげて笑うこともなかった星野源、「そして、生活はつづく」。同様なレビューが非常に目立った本だ。先月、彼の新刊が発売されたとのことで、せっかくだから、こちらも手に取ってみたのだが....

 

 

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結論から言おう‥。クスリともしなかった。

 

しかし、である。そもそも今回の本に関して、彼は、人を笑わすために綴った感じではない印象を受けた。少なくとも、私にはそう感じた。

作家として、うまくて流麗な文章を書きたい‥そうした欲がでてきたのか、予想以上に“売れっ子”となって、下品でエロかったりする「ありのまま」の星野源が綴るのは、もう困難になってしまったのか‥‥。変化の理由は判らない。

 

【そして、生活】は、そのタイトルのとおり、もっとこう「日常的」な部分が綴られていた。したがって、読者も彼を身近に感じることができたし、有名人の裏側を覗けて愉しめた。【いのちの車窓から】は、ちがった。

もう完全な「タレント本」と化している。多く占められているのは芸能界の知人、楽曲、出演した番組などについて。‥むろん、それだけ彼の生活環境も変わってきたのだろうが、“売れてしまった”ことを、あるいは残念に思う読者もいたかもしれない。

「私だけが知っている星野源。あの彼は、もうどこか遠くへいってしまった」的な思想。唯一、ファンが身近に感じられた「文筆家」としての彼も、あらためて“芸能人”である事実、現実を哀しく突き付けてくれる。

 

 

笑いの要素は減ったとはいえ、【SUN】や【恋】というファン人気も高い楽曲の誕生秘話を聴けたり、新垣唯衣や大泉洋との交流を綴った裏話、趣味の「ゲームネタ」も散見できる。私も、彼が尊敬するという作家の本を早速取り寄せてみたりした。

 

明らかにそれまでと一線を画したのは、終章【夜明け】と【ひとりではないということ】という、ふたつのエッセイ。このエッセイを読めただけでも、購入した甲斐があった。たとえば前者の出だしは、こう始まる....

 

 

リビングからベランダの窓をガラリと開ける。

まず、つま先から凍る感覚があって、それから冷気が顔まで素早く上昇してくる。部屋の中の暖かい空気が、突風に吹かれたタンポポの綿毛のように外へ飛び出していく。傍では暖房の室外機の音が聞こえ、遠くには燃費の悪そうなバイクの音が聞こえる

 

情景が浮かんでくる。まるで小説のような文体だ。これは創作ではなく、彼がみたもののを、そのまま文章化した。帯にあった『彼が紡いできた風景、心の機微』まさにである。書く内容は変わってきても、文筆家・星野源は、ますます進化を遂げてきている模様だ。

 

一個人的には【人見知り】というエッセイも好きだった。ポジティブかつ理論的な発想は、きわめて明快。「く、そして生活はつづく」頃の“源さん”も、本の中にちゃんといた。

 

 

risingham.hatenadiary.com

 

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いのちの車窓から