「話し合って別れる踏ん切りをつけたかった」
昨年5月に発生した小金井ストーカー事件。犯人はそのように供述したそうだ。無論、被害者女性と交際した事実などはなく、すべて、犯人が勝手に頭の中で思い描いていたにすぎない。
‥実名報道されているのをみると、一応“普通の人”ではあるのだろう。そう考えると「狂気」は常に隣り合わせにあって、いつその牙をこちらに向けてくるかもわからない。誠に恐ろしい話である。
妄想は“してもいいヒト”と、“してはいけないヒト”がいる思う。
両者のちがいは「自覚症状」があるかないか‥だ。妄想を、妄想を思えているうちはいいが、現実との見境がつかなくなってしまう人間が、時おりみられる。前に述べた男がいい例だろう。妄想がエスカレートし、脳内で彼女と付き合っていた。男の中では、もはやそれが“現実”だった。
「恋は盲目」といわれるように、たしかに恋愛がらみが多い。そして、やりきれない想いによって、事件に発展する。過度な妄想が、決して開けてはならなかった扉をこじ開け、奇妙な世界を生成してしまうのだ。
‥今回は、そうした危険な妄想にとらわれた男女の奇妙話を3篇、載せておこう。
◇【ルナティック・ラヴ】 豊川悦司
この回を見てもわかるとおり、やはり「女につきまとう男」の方が、はるかに危険度が高い。自らの想いを断ち切るため、あるいは理想の物語を完結さすために、相手を死にいたらしめる傾向が多々みられる。“異常者”を演じた豊川がそうであったように、少し大柄の男に力づくでこられたら、一溜りもない。
殺害される女性が最期に放った一言が、物語のすべてを象徴している。ゼロから創りあげた男のが狂気な世界が、なにか幻想的な映像によっておくられる。
◇【テレパシー・ラブ】 水野真紀
こちらは分かりやすい、オンナ版のストーカー話といっていいだろう。男とちがい、直接には手はくださない。しかし、このオンナの場合は少々勝手がちがった。ある“特殊能力”を持ち合わせていたのである。そう、それがテレパシー。
‥好きな男とだけ、テレパシーができるだなんて、そもそも胡散臭い話だが、彼女にとっては、やはり「現実」なのである。今おもうと、テレパシーを“交信”している彼女の顔もまた、どこか狂気じみている‥。
◇【私は、女優】 菅野美穂
この話は前のふたつとは異なるけれど、妄想がひとつの世界を創り出した点においては一緒。ただ、彼女の場合は「無」からである。ヒトも、街も、自分の存在すらも、自らが生み出していた。
‥もっとも、この事実が解るのはラストシーンであるが“真実”を知ったうえで物語を見返すと、彼女のとった行動、ひとつひとつの表情といったものに、ようやく合点がいく。素敵な恋人がいて、自分は、女優‥。ある意味、幸せな女ではあったが。 《続く》