ノンフィクション書きの名手・沢木耕太郎の本に、こういったものがあった.......
少し精神に異常をきたしていた元娼婦。あるいは似た境遇の女たちが集う施設があって、人里離れたどこかの島に“隔離”されているのだという。そこへ赴いた氏が数日間、彼女らと生活を共にして、話を訊く‥‥たしかそんな内容だったと思う。
さながら【シャッターアイランド】である
‥と、筆者は今、得意げに書いているが、日本での公開は2010年とのこと。相当なタイムラグがあるのは承知のうえ、けっこうハマってしまった。なにせ映画の冒頭から視聴者へ届けられる『あなたの脳を信じてはいけない』のメッセージ。意味深かつ、だいぶ“挑発的”なそれを目にして、私も心して臨んだのであるが、マーティン・スコセッシ(監督)にはしてやられた――
今まではあらすじを軽く触れるだけのスタンスを取ってきた。この作品においては、のっけから核心を触れたくて仕方がない(笑)。しかし、いわゆるネタバレをしてしまうとの愉しさが半減‥‥いや、おそらく激減するので、極力避けるようにするが、本当は、ひとしきり内容を理解したうえで語る愉しさが【シャッターアイランド】にはあったりする。
精神を病んだ犯罪者の収容施設がある孤島、シャッター アイランド。厳重に管理された施設から、一人の女性患者が謎のメッセージを残して姿を消す。孤島で起きた不可解な失踪(しっそう)事件の担当になった連邦保安官のテディ・ダニエルズ(レオナルド・ディカプリオ)は、この孤島の怪しさに気付き始める…… ※シネマトゥディより
近年、なぜだかこの手の作品と遇う機会が多い。ただ今回のはわりと「ガチ」で、スクリーンの中に“それっぽい人”が多数、登場してきている。それこそ沢木氏が描いた本の中の世界観に近く、なにか常にどんよりとしていて、薄暗い。いちど迷い込んだら抜け出せない‥的な、あのスリラーな恐怖ともまた違う。とにかく漂う全体の空気が不気味なのだ。
失踪した女性の捜査に当たっていた、保安官のテディ。彼は過去に負った深い心の傷でトラウマがあり、慢性的な頭痛に苦しんでいた‥‥。実、島へは自らの意志で潜入し、本来の捜査とはちがう、別の目的があった‥‥という、テディ自身も相当「あぶない刑事」ならぬ、ワケアリ刑事であるのは、もう物語の序盤あたりから容易に想像が可能。
急展開するのは、ともに派遣されてきた相棒保安官・チャックとともに、独自の捜査を進めていく過程で、もっとも島内で危険といわれていた「C棟」に足を踏み入れてから。ここで囚われていたジョージ・ノイスがヤバい。‥‥何がヤバいって、見た目も確かにけっこうヤバかったが、エンディングを前にして本作品の核心に迫っている。
『お前のために仕組まれたゲームだ』
はたして、これが意味するものとは何か。
ノイスの言葉からくみ取れる、大方予想通りの展開であったとして、でも、それを根底から覆してしまいそうな、驚愕級のそのラストシーンを、私は今、本当はここで語りたくて仕方ない(笑)
‥言えるのは、カレは、最初から望んでそうしていたのか‥‥明確な答えがあるのなら、どうか私に教えてほしい。ずいぶんと“手の込んだ”造りを、あらためて、もう一度、見返したくなる。
不気味さを一層醸し出すサウンド、ワイルドでいささか病的なディカプリオも秀逸。
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