「字幕」と「吹き替え」どちらが良いのか? は、シネマファン問わずとも、なかなか悩ましきテーマだ。
それぞれに良さはあるけれども、選べるなら後者の方である。理由は、どうしても文字を目で追ってしまうため、細かい描写だったりを見逃しがちになるから。さらにスクリーンだと字が小さすぎてよく‥‥のハズ〇ルーペ状態。これは単に筆者の「老眼」が原因と思われるが、困ったものだ。
吹き替えには、こんなメリットもある。担当した声の主が、あまりに役に適していた場合――
【私の中のあなた】において、アビゲイル・ブレスリンの吹き替え役を担った宇山玲加(うやまれいか)。これが実にハマっていた。試しに字幕版の方でも視聴し、ブレスリンの“生声”を聴いてみたのだが、劇中11歳少女という設定のわりに、少し声が低く‥‥といった、まぁこれも日本人である私の勝手な解釈ではあるのだけれど、彼女を可愛さを、より引き立てていたのは宇山氏‥‥そんなふうに思えてしまった次第。
映画冒頭とラストにある彼女のナレーションが抜群
ここのところ、よく耳にする白血病‥を患う姉を持つ妹と、それを取り巻く家族の物語。病気のケイトを救うために“つくられた”のが、試験管ベビー・妹のアナだ。やがて思春期を迎え、自らが置かれている立場を理解するようになったアナは母親を訴える。私という人間をもっと尊重してほしい。姉のために生きるだけの人生は、もうまっぴらだと。
いくら「訴訟大国」とはいえ、こうした裁判が向こうでは頻繁に繰り返されているのだろうか。日本ではまず考えられない展開だ。
並行して、それまで一家の辿ってきた道のりが回想される。最後まで望みを捨てない母親‥‥家族仲が上手くいっていないのは、病気のせいと自分を責めるケイトと、本当は姉のことが大好きなアナ‥‥。一連の描写は、おそらく同様な経験を持つ者にとって身につまされる思いだろう。
家族の悲痛な叫びといい、だいぶリアルに描かれた病状も、観ていて若干痛々しかった。しかし、実の母親を訴えたアナの真意を知ったとき、この作品の見方が180度異なってくる。エンディングの迎え方も、原作とは違うらしいのだが、筆者は好意的にとらえた。
合間に挟まれるケイトの恋愛模様。終始ヒステリー気味だった母親が、それを柔らかな眼差しで見守っている姿がいい。ひとつのボタンの掛け違いで崩壊の危機に瀕した一家も、けっきょくは想い合って生きていたのだ。
【きみに読む物語】と同じニック・カサヴェテス監督。アナの母親はキャメロン・ディアスが演じた。2009年公開。