センテンス・オータム

ディープ・マニアック・鋭く「DMS」 様々なアレについて... (シーズン中は野球ネタ多し)

「厭世マニュアル」 阿川せんり

季節に関係なく、私はよくマスクをしている....

 


大きな理由は3つ。一つは風邪予防。自分自身は風邪をひいていないが、他人(ひと)からもらわないため。これが7割。最寄りのコンビニなどに用があって行く際、無造作に伸びた髭を剃るのもいちいち面倒なので、それを“カバー”するためが2割。

残りの1割が、ちょっと精神的に堕ちているとき。陰気な表情を見られまい、空気を悟られまい‥‥ほら、そうしたのをアカラサマにしていると、周りにけっこう伝わってしまうじゃない?だから、それを予め“防御”するための着用が、1割。

 

そんなヒト、自分以外にいないと思ってたから笑っちゃった。「彼女」は私でいう、1割に近い理由が10割。つまり、マスクをする“外的要因”など、他にまったくないのに、自らの顔を隠すためだけに“装着”をしていた。しかも、毎日‥。彼女にとってのマスクは、さながらタイガーマスクのアレなんかと同じなのだ。

 

 

 

厭世マニュアル

 

 

【厭世マニュアル】に登場してくる主人公、みさと。一人称は「口裂け」。札幌市琴似に在住。ワケあって家賃1万3000円のアパートで一人暮らしをしている口裂けは、駅前のダイエーにはよく食材の買い出しに行く。‥調べてみたら、そこは実在するらしい。もっとも現在は「ダイエー」という名前ではないみたいだけれども。

 

市内のメインストリート「栄町通」は、あえて避け、遠回りしながら通う街中のレンタルショップ屋が彼女の今の職場。道中、歳をくった柴犬に見惚れ、話しかけるも偶然それを見ていた小学生から不審者扱いされる、マスク女。しかし、のちにこの女児と不審者女の奇妙な交流が始まる。


コミュニティ障害。略して「コミュ障」の気がモロにある口裂けは、当然、職場でも浮いた存在だ。変わろうともしない、その意志すらもない“従妹”を遠巻きに心配する、伯父でもある店長は、どうにかしてマトモな社会人になれるよう‥いや、せめてマスクを外して仕事ができるようにと、叔父なりにやんわりと促してはみるのだけれど、なかなか彼女の心には届かない。

そんな折、大学時代の先輩との予期せぬ再会によって、彼女を取り巻く環境は徐々に変化をみせていくのだが....

 


後半からラストにかけて、想像を絶する二段階の「変身」を、口裂けはしてみせた。あまりに急激、かつ過激な変化ぶりに、読者は十中八九面食らってしまうだろう。バイトに就いてからの約一年のうちに、口裂けの身にいったい何が起こり、どんな心情の移ろいがあったのかは、ぜひ本書で辿ってもらいたい。

 

作者の阿川せんり氏も北海道札幌市出身。北の大地を舞台にして描かれた【厭世マニュアル】は同地に住む方なら、その情景がページ毎に浮かんでくるのであろう。