18日の昼下がり‥‥突如舞い込んできた【黒田博樹、現役引退】の報。
野球ファンなら大抵、予想と覚悟はできていたと思うが、いざ現実の出来事となると、なかなか受け止められずにいる方も多いかと思う。
今季、黒田は10勝か‥。防御率も3.09と、まったく悪くない。この成績だけをみれば、まだまだ来期以降やれそうな気もしなくもないけれど、そこは当人にしか判らない「肌感覚」というものがあるのだろう。
ただ、彼のような引き際も、個人的にはアリだ。身体がボロボロになるまで現役生活を全うしたノムさんや落合も、またひとつの美学ではあるが、カープでいえばミスター赤ヘル・山本浩二がそう。現役最終年に27本塁打78打点も記録している。いわば4番打者としての務めをしっかりと果たしながら、翌年の引退なのだから、衝撃の大きさでいったら、今の黒田と同等だったのではないか。
我々の記憶の新しいところでは、新庄剛志。34歳での引退である。あの当時のことは今でもよく憶えているが、2006年の日本シリーズ、ひいてはペナントレースも、ハッキリいって彼が勝たせてくれたようなものだ。引退を公表した時期はだいぶ違うけれど、ナインは皆『SHINJOのために』と、ひとつになっていた。彼から云わせれば「俺がみんなを乗せてやった」ぐらいに思っているのかもしれないが、何か“見えないチカラ”が働いていたのは、たしかである。
‥その目には見えないチカラが働いたときが、実は相手チームにとっては何よりの脅威となるのだ。往々にして予期せぬことが起こりやすい。
筆者も選手権前の引退表明は、さすがに予想していなかった。広島と日本ハム、両リーム以外の中立の立場にいる野球ファンは、おそらくこれで黒田に「花道を飾らせたい」となるはずだ。‥そして「ラスト登板」は、全国のプロ野球ファンが注目する。
いってみれば日本ハムファン以外の、ほぼすべての野球ファンを味方につけたカープは、2006年の「新庄劇場」のときと似ている。展開次第では、大谷翔平すらも「憎き敵」として扱われてしまう、選手権でのカープの恐ろしさ‥。むろん、カープナインは奮い立つのだろうが、ハムナインがこれを跳ね返すのは、容易ではない。
それでも10年ぶりの日本一と、パ・リーグの威信をかけて、日ハムはシリーズに勝たなければならない。黒田の引退も、こういってはなんだが、所詮「他人事」である。
‥‥ハムが日本一になったら『空気を読んでない』などと、さんざん外野から叩かれるのだろう。今から目にみえている。しかし、「新庄劇場」のようなケースは非常に稀有で、野球には筋書きがない。今風にいえば「KY」な事例は、これまでも数多くあった。
日本シリーズなら、1995年のオリックスを破ったヤクルト。「がんばろう神戸」を合言葉に、被災者に勇気を与えてくれるはずだった仰木オリックスを、難なく撃破。「筋書き」通りに描かれるのであれば、野村ヤクルトのあそこでの日本一はなかったのではないか。
翌年、オリックスの日本一はドラマチックだったが、なにせ相手が11.5ゲーム差をひっくり返し、日本中が「メークドラマ」で沸いていた長嶋巨人である。イチローがいたオリックスも、さすがにミスターを向こうにしてしまっては、KY球団でしかなかった。
‥野球は、なかなか青春漫画のようにはいってくれない。
今から28年前のちょうど今日にあたる「10.19」。あと1勝、あと残り2イニングところで、近鉄はリーグ制覇をつかみ損ねた。相手は最下位のロッテオリオンズ。現代でも多くの野球ファンによって語り継がれる激闘の裏には、ロッテの意地があった。
KYには、KYなりの美しさがあるーー
いずれにせよ、今年の選手権の盛況は必至だろう。見えないチカラが働くかもしれないカープと、KYと云われかねない日ハム球団との意地の激突。‥愉しみではある。