幸福は一夜おくれて来る
‥とは、太宰治【女生徒】の中にある一文で、私も好きなフレーズだ。
主人公は「幸福」は一生やってこないものと悟っている。けれども、明日は来ると“信じて”寝て待つとも‥。一見矛盾しているように感じられるが、要は気持ちの持ち様ということだろう。暗いことばかり考え続けているよりも、明るい未来を創造していた方が、愉しい‥‥。
しかし、もう切羽つまったヒトには来ないかもしれぬ幸福を「信じ待つ」という選択肢は、消失してしまっている。一刻もはやく、今いる世界から逃げ出したい‥‥。ただ、その一念である。
私は「逃げる」という選択肢は、大いにアリだと思う。「逃げる」は、何も死ばかりを意味しているのではない。もっとシンプルな発想だ。
今の会社が嫌なら、命を削ってまで働かせられるくらいなら‥そんな会社、いっそ辞めてしまえばいい。学校で虐めを受けているのなら、そんなところへ無理して行かなくてもいい。
親や誰かを困らせたくないから‥その事実を伏せ、ひとりふさぎ込んでしまうのも、判らなくもないが、結果「死」を選択したことで‥もうどうしようもない哀しみを、周囲の人間に背負わせている。
「逃げる」ことさえできれば、また別の道、他のステージが用意されていたかもしれないのに、だ。‥むろん、そこも「幸福」とは限らないが、おそらく今より、苦しみは緩和されるだろう。視野をひろげるうえにおいて「逃げる」を、もっと肯定的に捉えてほしい。
大手広告代理店に就職した女性。夏休み明け、ほのかな期待を持ち、迎えた新学期になっても状況は以前と変わらなかった少女‥‥。彼女たちの安住の地は、会社や学校ではなかった。
先が見えずに、深い闇の中でもがき苦しむ時期が、誰にだってあるだろう。自分にもあった。だが、幸いにして私は、ある音楽から発せられた「メッセージ」によって救われた。それがI WiSHの【Flower】という曲である。
真実は いつもひとつだけれども
道はふたつ以上ある 大切なものを守りたいんだ ただそれだけ
一回一瞬でも 精一杯の花を咲かそう
「道」は、かならず他にもある。そこに救いの手を求めてもいい。自分にとって“大切なもの”、それだけ失わないように‥今できることからやろう。
私にとって“大切なもの”は書くことだった。書くことと出合い、そのときできる、精一杯の花を咲かせようと、研鑽の日々だ。その先に「真実」があるのだと、信じている。
逃げたっていい。「真実」へ通ずる道は、きっと、また別の場所にある。「幸福」は、その道を見つけられたヒトに、訪れるものなのかも知れない。