巷では、そうも囁かれているらしい。由来は福山同様、唄えて芝居もできるからだとか。しかし、見た目の印象は、“本家”に程遠い。‥背も大きくないし、無茶苦茶にイケメンというわけでもない。実際、私の周りでも「なぜ星野源が人気あるのかわからない」といった声が、ヤロウを中心にしてよく訊かれた。それでは昨今、大衆のハートを射止める彼の魅力は一体どこにあるのだろうか。
病気をし、復帰ライヴを武道館で行った‥‥そんな記事を、以前の週刊誌で見かけたことがある。だから、彼は「音楽家」なのかと、長年思い込んでいた。
大河ドラマや昨年末のドラマで、俳優としても多くの人に認知され、人気に火がついた。福山の「後継者」とまでいわれる彼を、次第に私も気になり始めた。そこで情報を追っているうち、またあらたな顔を知ることになる。文筆家としての、星野源ーー
本まで出していたのを知ったのは、本当につい最近‥。俄然、興味が湧いた。物書きのはしくれとして、これはただ見過ごすわけにはいかない。比較的評価が高かった彼の「処女作」をさっそくネットで取り寄せ、読んでみることにしたのだが、これが意外と本格的だった。
タレント本にありがちな画像やイラストの類は一切なく「文字」だけで、確かに埋め尽くされている。‥だが、肝心の中身の方はどうなのか。「星野源が書いたものだから」と、私は“後だしジャンケン”のようなことはしたくない。良いものは良い。悪いものは悪い‥‥。他の肩書きは頭から切り離し「エッセイスト」としての彼と、向き合った。
率直な感想からいわせてもらえば「星野源が書いたものだから」というのは、あるだろう。正直これは否めない。仮に同じ内容のものを名の知れぬ素人が書いていたとしたら、さして評価されることもなかったと思う。「(笑)」多様のユニークな文体ながら、下品でシモネタも、けっこう多い‥。
役者であり、音楽家の顔を併せ持った彼だからこそ、また違った一面が知れて、その「ギャップ感」みたいなものを愉しめる部分があったのではないかと。
だからといって、“幻滅”したのかというと、そんなことはない。これを読んで、むしろ私は星野源という男が好きになってしまった。文章の良し悪しではなく、そこに綴られていた彼の生きざま、秘めた想いといったものに、私は完全に魅了されたのだ。
ドラマで共演し、同い年でもある「大谷亮平」の変換ミスと思われたかもしれない。
いや、一見畑違いのプロ野球選手、大谷翔平で間違いはない。大谷とは、暮れの紅白歌合戦でわずかに交わっていた。照れながら「恋ダンス」を踊る新垣結衣の隣で、まったく無表情でステージをみつめる大谷の姿が印象的だったが、それよりも、あの野球界のニュースターを連想させるような文が本書で見られた。
一足のわらじを履く人より、二足のわらじを履く人のほうがおもしろくないか?
引っ越しをする際、不動産屋の人に職業を尋ねられた。自分はいったい何者なのか‥‥。さんざん困惑した結果、若き日の彼はこうポジティブに開き直ったのだ。
だって現実的に考えたら「わらじの上にさらにまたわらじを履く」なんて、すごく難しいと思うけど、それをやる人がいたら見てみたいし、素早く別方向に逃げる二匹のうさぎを一人で捕まえられちゃったら本当にすごいじゃないか
【部屋探しはつづく】より
球界の常識にとらわれず、投手と野手「二刀流」の道を突き進んだ、大谷翔平にも置き換えられる。もっともこの文章は大谷がプロ入りするはるか以前にしたためられており、俳優、音楽、そして物書きと、早くから「三刀流」の野望を抱いていたことが窺えた。これを本当に実現させた彼は、本当にすごい。
前述のとおり、下品な文章は多いが、それも彼の持ち味ととらえ、さらに【そして生活がつづく】が処女作であったことを考えれば、伸びしろもあるだろうし、以後に出版された著作も読んでみたいと思った。
「箸選びはつづく」の項など、急に女(なぜか関西人)になってみせるなど、うっすら太宰治を彷彿させる。文豪としての彼にも期待したい。
年末はマイケル仕込み?のキレキレな【恋ダンス】披露していた星野。間奏のときに、後ろのダンサーたちに声をかけるのはお約束なのか。あのシーン、なんとなくツボった。