本放送がいよいよ今週に迫り、ますますマニアックに語ってみようかと思うこの話題......
あらためてフジの公式サイトを確認してみたけれど、それぞれ主演を張る三浦春馬と倉科カナは、“リピーター”。過去にも出演経験がある。なかでも倉科嬢は「独身OL」という人物設定らしいが、たしか前回出演した【相席の恋人】においてもそんな感じではなかったか(前カレと籍を入れていたのかどうか劇中では不明)。いい意味で彼女の“普通っぽさ”が成せる業だ。
彼らのように複数回にわたって「奇妙」に出演する俳優はわりと多い。前にも触れた大杉漣や佐野史郎なんかも、初期の頃からかなり顔を覗かせてくれていたが、やはり「主演」となれば別格。深田恭子や広末涼子といったあたりの女優は、4本もの作品で主演を務めており、もはや「準レギュラー」である。
この常連俳優のなかで、比較的“アタリ”作品が目立つのは椎名桔平と、なぜか芝居が本業ではない小堺一機‥。とりわけ前者が出演した作品はどれも印象深く、個人的な見解ではハズレがひとつもない。安定感抜群なのだ。今回はそれを検証すべく、先ず椎名桔平の「奇妙伝説」を振り返ってみたいーー
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◇午前2時のチャイム (2007春)
王道ホラー系の傑作。本作品を夜中に一人で観てはいけない‥といったら言いすぎか。
主人公の人気小説家(椎名)は、きまって午前2時になって鳴るインターホンのチャイムに悩まされていた。そこに映っていたのは不気味極まりない、マスク姿の女。この女の正体を探す過程で、小説家はある奇妙なウワサを耳にする‥。
といった具合に、怖さも最強なうえ、“2段階のオチ”が用意されているという、手の込んだ秀逸シナリオ。‥これは余談だが、劇中使用されているチャイムの音色が放送当時、筆者の住んでいた部屋のものとまったく同じで、チャイムが鳴るたびにビクビクとさせられた記憶がある(苦笑)
◇ネカマな男 (2005秋)
世にも歴代「〇〇男」のなかでも“異色”だった、こちらのネカマ男。
女の子のフリしてメールを送る‥のは、大森南朋の【分身】でもチラッと触れられていたが、椎名サンのはガチ(笑)。異性のメル友と親しくなるために、妻の名を語って女子大生の「ミドリちゃん」とやり取りを交わすも、のちにカノジョも男であったことが判明‥。オンナになりきった“オジサン”ふたりが奇妙なメッセージ交換。序盤はコメディそのもので、よく聴くと、途中カラスの鳴き声なんかが効果音として用いられている。まるでドリフのようだ。
しかし、これだけで終わらないのが世にも奇妙。椎名サンが“演じていた”妻を、本気で愛してしまった相手の男がストーカーと化す‥‥
で、終わっていれば‥ミドリのオジサンがストーカーになって済んでいれば、“まだ”良かったのかも知れない。本作はもっと救いようのないオチが用意されていた。
実、彼の出演する作品は総じてラストが闇であり、これがまた視聴者方を深く印象付ける。ただ本作品にかんしては、最後、泣き崩れた「ネカマの男」に同情した者は、誰一人としていないだろう。
◇のどが渇く (1996秋)
「世にも」では度々見受けられるタッチで、まず冒頭にヒントが隠されている。したがって勘の良い人なら、すぐにこの物語のカラクリが解るはず。それを知ったうえで“二度見”してみるのも良い。
砂漠に取り残されたビジネスマン(椎名)が“奇跡の生還”を果たす‥も、彼の周辺では次々と奇妙な現象が起こる。そして、とにかく喉が渇いて仕方ない。診てもらった医師は『異常なし』の診断。水分を欲しているのは、あくまでも脳。頭では分かっているけれど‥。次第に日常生活にも支障をきたすようになった彼は、やがて真実を知るーー
細かいところではエアコンの温度を下げるように命令した、オフィスでのシーン。暑いから椎名サンだけ、額に汗をかいている。しかし、周りは寒いから皆厚着をしている‥。一体どれだけ低い温度に設定させていたのか、気になった(笑)。こんなワガママな社員がひとりいたら大迷惑である。
◇扉の先 (1997春)
当作品で彼が演じたのは、なんと死刑囚。極めて「閉鎖的」な空間のなかで起こった、奇妙な物語。
あとで見返すとツッコミどころ満載といった塩梅なのだけれど(死刑囚を集めて運動させるとか、囚人同士が会話できてしまう房のつくりとか)、インテリ系な悪い男の役が実によくハマっていた。椎名サンの演技‥というより、椎名サン演じるこの死刑囚が、劇中なかなかの役者っぷりで、他の囚人を恐怖に陥れる。彼のまいた種が、のちのち自らに降りかかってくるとも知らずに‥。
死刑囚を収監しているのだから、おそらく拘置所内だと思うが、朝の放送とか食事の内容はわりとリアルに描かれ、コレ系が好きな人も興味深い。確定死刑囚なくせに、やたら呑気に構える椎名サンは気になったが(笑)、CMあけの後半以降は形勢が180度変わる。‥もともと死刑囚なわけだし『天国から地獄へ』の表現もヘンなのだけれど、あながち間違いではない。明暗分かれた、前後半‥彼の“演じ分け”にも注目だ。
以上、4作品。椎名サンの作品だけを集め、【椎名桔平の特別編】と銘打ったDVDをつくっても、十分商品としてなり得る。それくらいハイクオリティ。作品の質と、もちろん彼自身の演技力の賜物でもある。
【ネカマの男】の一部分を除き、笑えるような明るい話はひとつもないが、奇妙「本格派」を望むファンには、きっとご満足していただけるのではないか。