かつて札幌ドームという「重すぎる鎧」を脱ぎ捨てるため、球団は何度も札幌市へ頭を下げていた。
使用料の値下げ、運営権の譲渡。だが、お役所仕事の壁は厚く、交渉はことごとく空振りに終わった――
しかし、今となってはあの頑迷だった札幌市に、心からの「感謝」を捧げるべきかもしれない。もしあの時、市が中途半端な妥協案を提示していたら、現在の「エスコンフィールド北海道」という、打ち出の小槌は存在しなかったのだから。
17日付、読売新聞の片隅に踊った【ハム完全子会社へ】の文字。それは、自前スタジアムで莫大な利益を叩き始めた球団に対する、親会社からの「独占宣言」に他ならない。地元経済界への恩義を、20倍という破格の「手切れ金」で清算し、完全に自立した集金システムへと昇華させる。その自信に満ち溢れた冷徹な資本戦略を、我々はどう見るべきか。
20倍の価格設定は、一見すると地元への恩返し。だがその実態は『我々の稼ぎに口を出すな』という通告だ。20倍もの利益を乗せてやるから、コレを持って静かに去ってくれ。情を金で清算する、あまりに鮮やかな幕引きである。
地元の顔色を伺いながら進める「合議制」の時代は終わった。20倍のプレミアムを乗せてまで100%の支配権を握る狙いは、エスコン周辺の広大な利権を、一秒でも早く、一円も漏らさず日ハムグループで独占するためだ。ビジネスの戦場において、20倍の支出は「自由」を手に入れるための必要経費に過ぎない。
1円の値下げも渋った札幌市のケチな算盤(そろばん)を尻目に、日ハムは数十億、数百億の単位で「未来の自由」を買い取った。この資本力の差、決断力の差こそが、今の両者の明暗を分けた真犯人だ。
(C)amazon 28年に新駅誕生予定※画像はイメージ
「共生」を求めた札幌ドームを、今は「過去の遺物」として冷ややかに見下ろす。この構図を日ハムの不義理と呼ぶか、札幌市の不作為と呼ぶかは、立場の違いでしかない。
資本の世界が示した答えはあまりに残酷だ。1株20倍という札束で「恩義」を買い取った日ハムの手元には、最新鋭の集金システム(エスコンF)と輝かしい未来が残り、1円の妥協もできなかった札幌市の手元には、維持費だけを食いつぶす巨大な「空箱」だけが残された。
この「意思決定のスピードの差」こそが、20年という歳月をかけて決定的な格差を生み出した。円滑になった意思決定の先にあるのが、あらたに建設予定の二軍施設を含めたさらなるチームの強化なのか、それとも親会社の財布の潤いなのか――
長らく札幌ドームに繋がれていたその足は、今や午の如き高い跳躍を見せ、重い鉄の扉を飛び越えた。‥だが、その着地点はもはや土の上ではない。親会社が敷き詰めた、20倍の厚みを持つ札束の絨毯の上だ。
