センテンス・オータム

ディープ・マニアック・鋭く「DMS」 様々なアレについて... (シーズン中は野球ネタ多し)

斜めからみた、映画版【イニシエーション・ラブ】

堤幸彦

この方、よく存じ上げないけれど、映画【イニシエーション・ラブ】のメガホンをとったとか。‥相当なチャレンジャーだと思う。実写は不可能と云われていた作品に、あえて挑んだのだから。

 

 

そんなわけで、正月鑑賞会第2弾。お次は【イニシエーション・ラブ】を視聴した。

乾くるみ氏原作の同名小説を映画化。一昨年春に劇場公開され、松田翔太前田敦子がW主演を務めた。

私はすでに小説の方には目を通していて、「衝撃」と謳われたラストも解っている。‥それを踏まえたうえでの感想なので、真っ新な方が視たものとは、だいぶ異なるだろう。

 

 

イニシエーション・ラブ

 

 

◇なかなか松田翔太が出てこない

 

 なるほど、そう来たかと。一応主役扱いなのに、彼は開始から30分強、画面(スクリーン)の前に現れなかった。予告編にも一切出てこなかった、“イケてない男”の「変身後」の姿が、side-Bなる後編で松田翔太になっていた‥という設定、見せ方だった。

 

‥原作を読んでいない人は、さぞ面食らったのではないか。‥ハンサムマンかっ?三村マサカズなら、きっとそうツッこんだに違いない。

さすがに無理があるだろう。side-Aのイケてない役の男は、松田に似ても似つかない。事前に交わされたセリフや小道具(車やプレゼント)によって、彼を松田に見せかけようとする努力は伝わってくるが‥‥正直しんどい。真っ新な人は、アレを視て、素直に“同一人物”と思い込んだのだろうか。気になるところだ。

 

 

 ◇実写の見どころ

 

基本、原作には忠実。原作にあるHなシーンに、特に前敦のファンは、ひそかに期待していたと思うんだけど、残念ながらA止まり‥。「A」とはキスのこと。筆者も作品に便乗し、80~90年代に流行った恋愛の進捗具合をアルファベットで表してみた。あ、厳密には「C」、すなわちセックスまでいったが、映像に関しては当然スルー。個人的には本の中にあった『竿竹なら、間に合ってます』を、ぜひ前敦の口から聴いてみたかった。

 

実写の優れていた点は、音楽だろう。時代設定となっている昭和末期の流行歌が、作中に多く流されている。【ルビーの指環】や【愛のメモリー】といった、実にベタな選曲ではあったが、やはり、イイ曲はいつ聴いても良い。

 

 

◇ラストシーン

 

端から“オチ”を知っていたのは先述のとおり。この際、私も“オチ”を知らなかったら、もっと実写版【イニシエーション・ラブ】を愉しめたのだろうか‥‥なんて、ちょっと複雑な思いになった。結末を解っているがゆえに、私は終始冷静。

前敦のキャラと喋りがさとう珠緒とクリソツだったりとか、松田のセリフ『石丸さん木村文乃の方が美人だよ』が、妙に説得力あったりだとか、本編とは関係のないことばかり考えては、それを打ち消す作業を繰り返していた。

 

しかし、原作と異なるラストシーン。事前に謳われていたらしいが、実際まったく違っていた。

原作のラストは、決して明るい感じでは描かれていなかったと思う。映画は、まるで「喜劇」だ。まさかの展開に唖然とする松田翔太の顔と【SHOW ME】男女7人秋物語主題歌)がかけられるタイミングが抜群。映画の観客も、驚く前に、すべての謎を知るよりも前に‥‥笑ってしまったのではないか。私も、これには一本取られた。

 

 

◇まとめ

 

だが、どうなのだろう。実写化すべきだったのか否か‥。

個人的な意見とすれば、しない方が良かったと感じる。そもそも乾氏がよく許可をした。やはり【イニシエーション・ラブ】は「本」だから、成しえた作品なのだと。もっといえば、「本」だからこそ“トリック”が通用したのではないか、と。

 

これを無理やり実写にしようとすれば、どうしたって「ハンサムマン」ごとくな無理が生じてしまう。唯一、ラストシーンをいじったのは面白かったし、かえって原作よりも解りやすかったかもしれない。なにせ「同一人物」と目されていたふたりの男が最後、“ドッキング”してしまったのだから。