これもフィクションであったらと思う...
ひとりの少年によって引き起こされた、2000年のバスジャック事件。シルエットをみるかぎり、本当に「少年」といった佇まいの“か弱い男”に、バスは実に半日以上も占拠された。
あの空間にいる数十名の大人たちを「支配」できたのは、事前に綿密な犯行計画を立てていたから。まず、あらかじめ男性客の少ないバスを選んでいる。乗客の反逆を恐れていたのだ。
そこから“マニュアル”に基づき、彼が取った行動は、いちいち隙がない。途中、数人に“逃亡”を許すも、計画はほぼ完ぺきだった。でなければ、事件はそこまで長期化しなかったであろう。‥唯一、『お前たちの行き先は天神じゃない。地獄だ』と口にしたあたりに、彼の幼児性も窺えるのであるが。
行き当たりばったりの犯行であるがゆえ、選んだバス‥いや、乗客に当たってしまったのが、中居正広。ここからフィクション。世にも奇妙な物語【不定期バスの客】の話。
自暴自棄になった、いささか頭の弱そうな男を演じているが、乗っ取ったあとは、わりと冷静に乗客たちへ指示を与えている。それこそ、何かバスジャックためのマニュアルが本当に存在するかのように、あの時の少年と重なる言動の数々‥。念のため、当作品の放送は、事件よりだいぶ前だ。
ところが選んだバスが悪かったばかりに、逆に窮地に追い込まれてしまう、中居演ずる犯人。乗客はそれぞれワケあって、死に場所を求めにきた「自殺希望者」の一行だったのだ。
したがってバスが崖から落ちるのも‥途中、ナイフで刺されて死んでしまうのも一緒と「死」に対しての恐怖など、もともと皆無。いっそ犯人も道連れにしようと、乗客たちは一斉に煽ったが、直前で降車を許された。犯人を降ろし、ふたたび走り出すバスーー
中居正広出演作品でも「神回」
ひとり、山道をくだる犯人の元へ、車内に薄暗い灯りをともしたバスが近づいてきて‥‥。話はそこで幕を閉じた。
あのバスは一体何だったのか?世にも“お得意”の、最後は視聴者に想像を委ねる形だ。犯人をまた迎えにきたとか、あれは、あらたな自殺者のツアーバスだとか、様々な憶測を呼ぶカタチになったが、私の見解はこうである。
最後に見たバスは、犯人が乗っていたバスと同一
つまり、犯人が乗ったバスは最初から“存在”などせず、ずっと「ツアー」を繰り返しているのではないか‥‥。乗客の魂、怨念だけを乗せ、永遠に走り続けるバス。自らがもう死んでいるのにも気づかずに。その無限ループのなか、たまたま乗り合わせてしまった。
運転手の「天馬さん」であるかどうか、映像で確認することはできないけれど、驚愕する犯人の表情を鑑みると、そんなような気もしてくる。
考え方ひとつで、ストーリーが螺旋状に展開されていくのも「奇妙」の面白さ。この手の物語はまだまだ他にもあり、都度、厭な後味や想像する愉しさを視聴者に与えてくれる。
オチは難解であればあるほどいい‥‥。これが“ツウ”の視方である。最近はそういった作品がめっきりと減ってしまった。
《参考文献》
◇ある日、わが子がモンスターになっていた―西鉄バスジャック犯の深層 (ベストセレクト)