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センテンス・オータム

ディープ・マニアック・鋭く「DMS」 様々なアレについて... (シーズン中は野球ネタ多し)

ヒトが「異常」に変わるとき

社会

迷い込んできた野良の子猫に、自分の部屋を汚されたとして逆上。その猫を焼却炉に‥‥

 

 

ドラマ「聖者の行進」でのワンシーン。しかし、これは視聴者にそう“見せかけて”いただけで、実は、子猫は保健所へ送られていたという、映像トリックによるものだった。

冷淡な男子高校生・俊輔が、そこまで手がかかる行為をしていたことの方が、逆に意外であったけれども、実際、多くの視聴者は胸をなでおろしただろう。

 

 

聖者の行進 DVD-BOX

 

 

はたして、“カノジョ”がこのドラマを見ていたかどうかは分らないが、当該シーンの記憶を呼び起こさせる「悪夢」が、先日、現実世界で起きた。燃えさかる簡易焼却炉の中に、猫を生きたまま閉じこめてしまうーー

 

 

もがき続ける子猫に、出られないよう、さらに上から手をかける狂気な女。あまりある恐怖と、絶望感‥‥考えただけで恐ろしい話だ。それをSNSに動画投稿していた女に対し『可哀想だ』『おまえは異常だ』といった非難の声が殺到するのは、時間の問題だった。

 

主は一体何者なのか‥‥その行為を大衆が異常と感じるのは当然として、私の関心はそちらに傾いた。

“犯行”時期前後に精神が異常をきたしていたのは確かなようだが、それまでは‥‥自らの半生を振り返っていたカノジョの言動、公開していた写真をみるかぎり、案外「普通」である。他と変わらない学生時代を過ごし、人並みにオシャレもして、普通に恋愛をし、その延長線上で結婚もした。どこにでもみられる、至極一般的な道のり‥。

 

 

根っこからカノジョを狂わせてしまったのは、どうも「男女関係」のもつれによるものらしい。狂おしいほどに人を愛して、それを失ってしまったとき‥‥あるいは、ヒトはあのように、いとも簡単に”壊れて”しまうのかもしれない。

 

怒りに嫉妬、途方もない喪失感‥。これらが勝ったとき、カノジョは精神のバランスを完全に乱し、「普通」ではいられなくなった。むろん、私情を動物虐待に結びつけるのは明らかに矛盾しているし、そうやって困難を乗り越えてきている人は、この世の中に大勢いるのだから、カノジョはまぎれもない「悪」だ。

しかし、これは決して他人事ではない。人間であるならば、カノジョのようには絶対にならないと、云いきることができないのが実なのである。誰にでも起こり得る‥。つまり「正常」と「異常」は自分の中に、常に隣り合わせにいるということだ。

 

 

くだんの「聖者の行進」において、物語の主役である知的障害者たちは、こう云った。『僕らにも真っ赤な血が流れている』。

存在そのものを否定し続け、凄惨な事件を引き起こした実在するあの若い男も、おそらくそれまでは“普通”だったのだろう。彼も自らの中のある何か失うことによって、人間ではなくなった。

‥いや、むしろ人間であり続けるため、「正常」ではかかえきれずに「異常」になったのかもしれない。ヒトの精神は躰よりも、ときに難解である。