殺人に手を染めるような犯罪者は、やはり、女よりも男の方が圧倒的に多いらしい。その分、オンナはわりと“特殊”なケースが目立つ。傾向としてみて多いのは、死亡保険金目当ての殺人(共犯者あり)、自身の子供や夫などの身内に手をかける殺人(ただし育児放棄等、直接は手をかけないパターン)といったあたりだろうか。
そして、私が知るかぎり特徴的であったのは、わりと「美女が多い」ということだ。オンナの場合、単独だと殺人は困難なゆえ、主に男性の共犯者がいる事例も、相当数みられる。‥男たちを惑わすほど、一方では「魅惑的」な人物であったとも、受け取れるのだ。
これを裏付けるかのように、本書に出てくるオンナも、水商売の仕事に就いていた者が3人、風俗関係が1人‥‥。そのこと自体が、のちの殺人という行為に直接結びついているわけでもないが、そこで得た「グレー」な人脈によって、人生を狂わせてしまったのもある。
【中州スナックママ連続保険金殺人事件】の高橋裕子は、かつては「白雪姫」と評されるほどの美貌を持ち合わせていたとか。載っていた小さな写真をみると、たしかに笑顔の素敵な、華やかな人物であったのを窺わせる。逮捕後の公判を傍聴した著者は、その以前との“変貌”ぶりに驚きを隠せなかった模様。下記は、印象的な一語だった。
はたしてそれは時の流れによる変貌なのか、それとも彼女の本性なのか
あとがきでは連載のときにはなかった、彼女のまた別の一面にも触れられている。
【大阪2児虐待死事件】の下村早苗。実父へのインタビューによると、彼女は記事掲載時、中国地方の刑務所で元気にやっているそうだ。
私が昔視聴していたドラマ「リップスティック」に、『子供産んだら、女やめて母親になれよ』という、三上博史のセリフがある。おそらく多くの方々が早苗に対し、そのように思い至っただろう。
しかし、夫もいない‥他に頼るべき身内もいなかった彼女の心情を想うと、私は複雑だ。悲惨な死を迎えた子供たち‥そして、早苗を社会から抹殺した根本は、はたして彼女だけに原因があるといえるのだろうか。
前の女が誰か似ていた。それを、なかなか思い出せずにいたら【秋田児童連続殺人事件】の畠山鈴香だった。170センチはあったといわれる高い身長に、東北特有な、あの“おっとり”とした話し方も‥‥あらためて振り返ってみると、酷似していた。
本書でおもわぬ感傷に浸ってしまった私であったが、10年前に起きた件の事件とは、一体なんだったのだろう。様々なところでいわれているように、やはり鈴香は「精神の病」に侵されていたのか‥‥。ただ、理由はどうあれ、幼いふたりの子供の命が奪われているのは、まぎれもない事実である。刑は確定していても、単なる“病気”だけで終わらせてしまってはいけない事件の気もするが。
本の中で取り上げられている殺人者10名のうち、すでにこの世にいない者が二人。留置所で自死した【尼崎連続変死事件】の首謀とされる角田美代子。それから2009年に死刑執行となった【大阪姉妹殺人事件】、山路悠紀夫である。
彼にかんしては、さらに詳しい書籍に目を通したことがあったが、こっちまで気が狂いそうになった。常人には、まるで理解不能‥。10代のときの“最初の事件”で収監された少年院生活によって、けっきょく山路本人は何も変われていなかったのだ。
そんな男をふたたび社会に出してしまった。事件に巻き込まれた姉妹、その家族の無念さはあまりある。明かされる、老いた姉妹の両親の「その後」がたいへんに痛々しい。死刑が執行されても、被害者側の負った傷が癒えることは、決してないのだ。殺人者とは、一体どこまで勝手なのか。ただただ卑怯である。
関心があったら、この手の本は読むが、ホームレス社会にも囚人生活にも、私は適応しない。独房でも、24時間ビデオ監視されていては、自慰行為にふけることもできない‥。
したがって、自ずと結論は導かれる。道を踏み外さずに、勤勉に働くよりほかはないのだ。
宮沢賢治の詩のようになって、なんだか笑ってしまった。
≪参考≫